(1)はじめに
本年度の日本弁理士会東海支部の活動の大きな柱として中小企業支援活動があります。昨今の厳しい経済環境の中、現状打破のため、中小企業こそ「何か新しい取り組み」をしなければなりません。
私たちは、「元気のいい」中小企業経営者の皆様に、今現在「元気のいい」原因となったその企業における「過去の取り組み」についてお話を伺っています。元気の原因となった過去の取り組みに普遍性があれば、その普遍性こそ、中小企業経営者が現在行うべき新しい取り組みのヒントになると考えたからです。
そこで、多くの中小企業経営者の皆様から生の声をお聞きして、元気を生んだ過去の取り組みをご紹介させていただくとともに、支援活動のベースとなる現場感覚を養おうと考えております。今回は、第5回です。
今までの中小企業インタビュー結果から、中小企業の採るべき「取り組み」の1つとして『独自技術を特許で保護すること』が良いと一応の結論づけをしています。中小企業が独自技術を活用して新規分野に参入する場合には、自社製品の宣伝PRや製造販売などの過程で、他社による独自技術の模倣を招くおそれがあります。また、市場の拡大に伴って、大企業が同じ市場に参入するリスクが生じ、自社の先行者利益が脅かされるおそれがあります。そのため、自社の独自技術を特許で保護することで、他社による独自技術の模倣を防ぐとともに、市場での優位性を確保することが重要となってきます。
そこで、今回は、独自技術を特許で保護することで、昨今成長が著しい環境分野で着実に実績を上げている企業を紹介します。
(2)元気のいい中小企業紹介★5★-株式会社藤総合センター-
株式会社藤総合センターは、振動分離リサイクル装置の製造及び販売を行う会社として、平成9年11月に設立されました。もともと、藤井康男社長は、1972年に藤興業を個人開業し、土木建築業を営んでいました。開業後、会社は順調に成長しましたが、土木建築業の将来性が乏しいことを察すると、藤井社長は業態の変換を模索し始めました。
そこで着目したのが、建設現場で発生する土砂でした。このような土砂には、鉄くずやプラスチックゴミなどの混合物が含まれているために再利用することができず、産業ゴミとして処分場に運ばれて最終処分されていました。
このような土砂から混合物を高精度で取り除けば、建設現場で土砂を再利用できると考えた藤井社長は、土木建築業の傍ら、振動分離リサイクル装置の開発に着手しました。約5年に亘る試行錯誤の結果、ついに振動分離リサイクル装置が完成するとともに、本装置に関する特許を取得しました。これをきっかけに、藤井社長はそれまで営んでいた土木建築業を辞め、株式会社藤総合センターを設立してリサイクル装置の製造・販売に業態を変換したのです。
会社設立直後は、会社の知名度がなく販売に苦戦しましたが、オアシス21建設工事やNEC工場解体工事などの大規模工事での採用実績ができるのをきっかけに、振動分離リサイクル装置の引き合いや販売台数が徐々に増加していきました。振動分離リサイクル装置は、小型~大型の用途サイズに応じて1台当たり数百万~数千万円という価格設定になっており、現在までに100台以上を販売しています。
同社の振動分離リサイクル装置を使用すると、従来よりも高精度かつ高速に土砂から混合物を分別することができます。これに留まらず、藤井社長は、産業廃棄物の中間処理において機械分別及び手分別のコストが大きい混合物(特に、木屑、紙屑、廃プラ等の軽質廃棄物)を、高精度で分別できないかを検討しました。その結果、平成9年に、風力によって比重の異なる軽質廃棄物を自動分別する風力選別装置の開発に成功し、本装置に関する特許を取得しました。
同社の風力選別装置を使用すると、分離後の混合物をがれき、廃プラ、石膏ボード、紙くずなどに全自動で分別することができます。さらに、藤井社長は、産業廃棄物から分別された廃プラなどのリサイクルを容易にできないかを検討しました。その結果、平成16年に、水、圧縮空気、回転力を使用して廃プラなどを自動洗浄する洗浄装置の開発に成功し、本装置に関する特許を取得しました。これにより、洗浄後の廃プラ等を資源として再利用することが、従来よりも格段に容易となりました。
同社は3つの独自技術を全て特許で保護しているため、他社による独自技術の模倣が防がれているのみならず、同社のリサイクル装置群は市場で確固たる地位を固め、この不況下に関わらず引き合いが絶えない状況を生み出しています。
特に、同社のリサイクル装置群は環境分野に幅広く利用可能であることから、高成長が望める環境分野に注目が集まっていることも相まって、これまでの取引先(解体業者や中間処理業者)以外からも引き合いが増えているとのことで、同社への社会ニーズはますます大きくなるものと考えられます。
このように、厳しい経済環境のなか、同社のように独自技術で新規分野に参入する場合には、その独自技術を特許で保護することが、その後の企業活動の一助になるのではないでしょうか?
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株式会社藤総合センター
〒444-0005 愛知県岡崎市岡町字東神馬崎北側19-7
TEL:0564-59-2260
FAX:0564-59-2267
HP:http://www.fujisougou.com/index.html
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日本弁理士会東海支部 知的財産支援委員会
委員 弁理士 岡本 祥一郎