実用新案法が平成5年に大改正されてから約10年が経過しましたが、実用新案法がまた大改正され、平成17年4月1日から施行されることになりました。改正の理由は、実用新案法の利用者数の減少にあります。具体的には、実用新案法が1905年に創設されて以来1980年まで、1年間当たりの実用新案登録出願の件数は増加し続け、常に特許出願の件数を上回っていました。
ところが、1981年の約18万件を境にして実用新案登録出願の件数は、特許出願の件数を下回り、1987年から減少し続け、1993年(平成5年)に実用新案法に無審査登録主義(審査をせずに権利化を認めること)を採用するという大改正を行っても減少は止まらず、平成14年には特許出願が年間40万件以上であるのに対し、実用新案登録出願は年間約8千件になってしまいました。このため、実用新案法に無審査登録主義を残したまま、魅力ある制度への改正が図られました。
ここで、現行の実用新案法を簡単に紹介しますと、同法では、ライフサイクルが短い考案を早期に権利登録して保護すべく前記した無審査登録主義を採用しております。これにより、出願から約5月ほどで一様に権利登録されます。特許法では出願から権利登録までに3~6年又はそれ以上かかる場合が多々あることに比較すると、権利登録の早期化が十分に図られたといえます。
また、実用新案法では、無審査登録主義の採用に伴う権利の濫用と第三者の権利監視の負担増加を抑えるために、権利者が実用新案技術評価書なるものを提示して警告した後でなければ権利行使ができない旨の規定や、行使した実用新案権が無効となった場合に権利者が無過失を立証しない限り権利行使により与えた損害を賠償する責めを負う旨の規定が設けられ、さらに、ライフサイクルが短い考案を保護するという観点等から存続期間を出願日から6年までとしています。このため、権利行使を念頭に入れて出願する企業は、実用新案登録出願を利用しなくなり、実用新案登録出願人の多くは個人が占めるようになったようです。
ところで、実用新案法は、権利行使の際に出願人の負担が大きいと言えども、実用新案登録出願が権利登録されれば、「出願中」の特許に比べて、第三者が受ける脅威は大きくなります。従って、例えば、以前一時的にブームになった「たまごっち」を発明・考案した場合に、特許法による保護を求めたとすると、ブームが過ぎ去った当たりで特許権がやっと登録され、十分な保護を図ることができないことになりますが、実用新案法による保護を求めた場合には、出願から約5月で権利登録されるので、ブーム中の保護が可能になります。
しかしながら、実状では、いつブームになるかは予想がつきません。そして、出願してから6年目以降にブームが訪れた場合や、第1次ブームから数年後に再びブームが訪れた場合には、実用新案法より特許法で保護を求めた方がよかったということになります。このため、長い期間に亘って発明品・考案品の保護を図る場合には、同じ内容の発明・考案に対し、僅かに権利範囲を異ならせて特許出願と実用新案登録出願の両方を行い、出願から6年目までは実用新案権による保護を求め、20年目までは特許権による保護を求めることが行われています。しかし、この場合、当然、費用がかさむので、通常はどちらか一方の出願になります。
これに対し、改正実用新案法では、「実用新案権の存続期間を出願日から10年までとする。また、実用新案権の設定登録後であっても出願日から3年以内であれば、一定の条件の下で実用新案権と同じ内容の特許出願を行うことができるものとする。また、実用新案権はみなし取り下げとなる。」と改正されます。
この改正実用新案法によれば、実用新案権が、出願から半年後に登録されるとその後9年半もの間、第三者に脅威を与え続けることになり、実用新案法の存在意義が高まると共に、権利登録された後でも出願日から3年までの間は、特許法による保護に切り替えるべきか否かを検討することができるので、実用新案法が利用し易くなります。
なお、ドイツ、韓国、中国では、実用新案権の存続期間は、出願から10年までとなっております。また、ドイツ、韓国では、実用新案権登録後に同様の内容について特許出願することができ、その際、実用新案権は存続する旨の規定があります。
ところで、現状では、実用新案法の保護対象は、「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」ということになっており、残念ながら、改正後もその保護対象は変わりません。また、改正案の検討段階では、ライフサイクルが短い発明・考案の代表格であるビジネスモデルを実用新案法にて保護するために、「ソフトウエア」を実用新案法の保護対象に入れるべきという意見があったようですが、第三者の監視負担が増すので保護対象を広げる改正に関しては消極的なようです。
しかしながら、「ソフトウエアの考案」であっても、物に化体した形で権利の請求範囲を特定すれば、実用新案権を取得することが可能です。そこで、改正実用新案法が施行された場合の一利用方法として、以下の形態が考えられます。即ち、ビジネスモデルに関連した技術を発明・考案した場合には、まずは実用新案登録出願を行い、その出願書類における権利の請求範囲には、ビジネスモデルに係る「装置」、「システム」を記載し、出願書類のうち権利の請求範囲以外の部分に、ビジネスモデルに係るプログラムや方法を記載しておきます。
そして、実用新案登録出願の出願日から約5月後に実用新案権となりますが、出願から3年間は他社の動向を伺い、実用新案権で十分に保護が図られるようであれば、そのまま実用新案権を維持します。一方、実用新案権では十分な保護が難しい場合、また長期的に保護を求めた方がよいと考えた場合には特許出願に変更すると共に、その特許出願の権利の請求範囲に、プログラムと方法の発明を加えて記載します。
今後改正される実用新案法が、読者の皆様が発明・考案した製品を保護するために有効になるかもしれません。一度は、利用方法を検討してみてはいかがでしょうか。
弁理士 松浦 弘