東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2004/07/21

我が国における裁判外紛争解決手段の活性化

…政府司法制度改革推進本部「ADR基本法」(仮称)の検討状況…

1.はじめに
 「もう我慢できない!訴えてやる!」…最近のテレビの法律相談系バラエティ番組で良く聴かれる決まり文句ですが、多くの方がこの決まり文句をご存じでしょう。裁判所に訴訟を提起することが、どちらが正しいのか白黒をはっきりさせる手段であると意識されている場面を表していますが、紛争の解決や裁判というものが「全面戦争」であると考える人は多いようです。
 ところで、紛争は、当事者の我慢も限界となり白黒をはっきりさせたいというような切羽詰った状況にまで至る前に、当事者の話し合いによっても解決できるものです。わが国は一般的には紛争を好まない国民性であると言われる反面、紛争解決交渉がスムーズに運ばなかったときには、テレビ番組のように、紛争当事者が全面対決の姿勢を強く表すような傾向にあるようです。ところで法的な紛争解決手段としては、このように紛争の最終結論をはっきりさせる裁判のほかに「ADR」と呼ばれるものがあります。

2.「ADR(裁判外紛争解決手段)」とは
 裁判以外の法的紛争解決手段を略して「ADR」と呼び、その例としては「仲裁」「調停」などが良く知られています。オリンピック出場選手枠の決定の際に、結果をめぐって選手と選考委員会などの間でトラブルになることがありますが、その際に利用される「日本スポーツ仲裁機構」もADRの一例です。
 知的財産権に関しては、日本弁理士会が日本弁護士連合会と共同で設立(平成10年)した(「日本知的財産権仲裁センター」)が「調停」等の取り扱いを行っており、東海地区には名古屋支部(下記所在地参照)が設置されています。
 ADRの特徴を一般的に言うと、
(1)裁判に比べると低額で利用できること、
(2)当事者の互譲により紛争解決を目指し、訴訟法上の立証等のように厳密性を要求されないこと、
(3)審理については裁判よりも秘密性が確保されること等がメリットです。
 しかしながら、取り扱い件数は多いとは言えません。他のADR機関を含めて、わが国のADRの利用は活発ではないというのが現状です。あまり活発に利用されない理由として、使い勝手が良くない、利用者になじみがない等が指摘されているようです。

3.「ADR基本法」(仮称)の検討
 諸外国に比べても利用が活発でないADRに関して、司法制度改革審議会は「ADR が裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、多様なADR が、その特長を活かしつつ充実・発展していくことを促進するため、総合的なADR の制度基盤を整備すべき」とし、これを受けて政府司法制度改革推進本部(裁判員制度の導入等、多方面に渡って検討を行っています)に「ADR検討会」を設置し、ADRに関する基本法の成立を目指しています。ADR検討会は、当初、平成15年度内での法律要綱案のとりまとめを目標としていましたが、ADRの拡充・活性化と、ADRの公正性などの確保という観点の大きく異なる要請を、既存の法体系の枠内で新しい法律に盛り込むことは非常に難しい作業であり、審議は本年度までずれ込んでいます。検討会では、本年度前半でのとりまとめを目指しています。
 検討会では、具体的には以下のような項目について審議を行っています。

「1.検討の対象とするADRの範囲」、ADRに関する基本理念や国の責務等の「2.基本的事項」、公正な手続運営の確保義務やADR機関に関する一般情報の提供義務等の「3.一般的事項」、調整型手続から裁断型手続への移行に関する手続ルール等の「4.調整手続法的事項」、時効の中断効、ADR和解契約の執行力、弁護士法第72条に対する特例として弁護士以外の者が主宰するADR機関の設立等に関する、一般法に対する「5.特例的規定」

 このうち、ADR手続の実効性やADR主宰者などの資格を弁護士以外にも認めようとする「特例的規定」の是非、特に、時効の中断や弁護士以外にADRの主宰を認める場合などに要求される要件の内容について、ADRの拡充・活性化を重視する立場と、ADRの公正性などの確保を重視する立場とからみた調整が議論となっています。

4.ADR基本法成立の影響
 そもそも紛争そのものが無い社会であることが望ましいことは言うまでもありませんが、価値観の多様化、経済活動のグローバル化等とともにむしろ紛争は増加しています。特に、規制緩和が進み、自己責任の名のもとに事後的に当事者が自主的に紛争解決を行うことがより一層求められることとなっているわが国においては、メリット・デメリットを十分に認識したうえで、紛争解決手段の選択肢の一つとしてのADRを考慮に入れておく必要性が高まっています。また、知的財産権等の経済訴訟においては、企業が紛争解決ポリシーの中にADRの意義をあらかじめ位置づけておく必要性も高まっていると言えます。
 ADR基本法は、わが国初めてのADRに関する基本法であり、また、それぞれの分野において多くの団体がADR機関の設立を計画しているようです。ADR基本法の成立と、多くのADR機関の設立は、国民のADRに対するイメージを大きく変えるかもしれません。その点で、ADR基本法は、従来活発でなかったわが国のADRの利用を活性化させるトリガーとなり得るかもしれません。

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弁理士 村山信義