例えば、本の中で、『何年か前に、かかりつけの腕のいい歯医者に聞いたことがある。「あなたは、何によって憶えられたいか。」答えは「あなたを死体解剖する医者が、この人は一流の歯医者にかかっていた、といってくれること」だった』との部分に目が止まる。そこで、「私は何によって憶えられたいか」と、素直に反応して、かなり真剣に考えたりするのだ。これが結構楽しい。
私達が自ら経験できることには限りがあるけれど、手軽に入手できる本という媒体を通じて、あらゆる時代や環境に生きた人々の経験や思いを追体験することができる。それはとても恵まれたことなのだと思う。
日本で過ごす日常では、言語によるコミュニケーションはルール共有の上に成り立ち、そのルールを解さない者にとって、文字は記号でしかなく、音声も音波でしかないのだということを、実感することは少ないけれど、そういう意識を忘れずに、言葉を大切に扱える人でありたいと思う。
弁理士 関根 由布