実際に改正法案が国会に提出されるのは2010年の予定ですが、すでに2008年の4月から、弁理士会の商標委員会では特許庁に提出する意見を1年間かけて話し合い、様々な問題点や改正案を検討してきました。主な論点は以下の通りです。
まずは、商標の定義の改正についてです。
諸外国では、商標法に「商標の定義」が詳細に明記されていない例も多く、単に「写実的に表現できる標識」「識別標識として機能しうるもの」「視認できるもの」というように、包括的表現で規定している国が一般的です。従って、音や動画についても識別性の要件を満たすものは商標として登録を認めています。
一方、日本の商標法では、商標とは「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」であると規定されています。この中には音や動画は明らかに含まれていません。これは限定列挙といって、商標の保護対象が明確になるという利点がありますが、新しいタイプの商標を保護するためには、商標の定義自体を改正しなければならないという欠点もあります。
そこで定義を改正するにあたり、限定列挙ではなく例示列挙や包括表示とする案などが検討されました。しかし、最終的には、包括的に規定することとした場合、商標の保護対象が不明確となり、出願人にとって商標制度への予見性が低下するおそれがあるとして限定列挙が望ましいとされています。
次に新しいタイプの商標について、どこまで保護対象を拡大するかという点が検討されました。新しいタイプの商標とは、動きの商標(テレビやコンピュータ画面等に映し出される平面商標や立体商標であって動くもの)、ホログラムの商標(見る角度によって変化して見える商標)、輪郭のない色彩の商標、位置商標(標章の付される位置が特定されることにより識別力を発揮するもの)、音の商標、香りの商標、触感の商標、味の商標等が挙げられます。この中で、書面及び電子ファイル等により特定することが困難である香り・触感・味の商標については今回の改正では保護対象から見送られました。
また、商標の定義を改正するにあたり、商標の定義に識別性の要件を追加することも検討されています。現行制度では、識別性は法3条の登録要件として規定されており、商標の定義には要件として規定されていません。しかし、商標の定義規定に識別性の要件を追加することとした場合、商標の使用の定義やこれまでの裁判例との整合性がとれるように慎重に検討する必要があると考えられています。
さらに、これらの改正に合わせて、商標の使用の定義の見直し、登録要件の見直し、権利範囲の特定方法の見直しや商標の類似範囲及び著作権等の他の権利との調整も必要となります。このように、新しい商標の導入により比較的広範囲にわたり法改正が必要となることから、商標法の全面改正をしてはどうかという意見も挙がっている程です。2010年には改正法案が出される予定であり、今からどのようなものとなるか非常に楽しみです。
日本弁理士会 商標委員会 委員
弁理士 矢代 加奈子
弁理士 矢代 加奈子