日本弁理士会東海支部の石田喜樹支部長はこのほど、「教育支援の取り組み」をテーマに愛知県立旭丘高等学校の岡田順一校長と対談をした。石田支部長は同日、旭丘高校で行われた教養講座で「知的財産権ってなあに―世紀の大発明をした時に備えて―」をテーマに約百人の生徒の前で講演を行い、わかりやすい内容で好評を博した。同支部のこれまでの取り組みや、講演会の感想などについて聞いた。
-東海支部の教育支援の取り組みについて具体的に教えてください。
石田 教育支援のため当支部では五年前に教育機関支援機構を立ち上げました。小中学校、高校、大学やさらには研究者や学校の先生も対象に知財の授業を幅広くやってきたというのが今までの経緯です。今回はたまたま高校ですけど、本年度、我々が一番力を入れているのは小学校です。小学校に行って出前授業を行い、子供たちに発明や物を創造する喜びや科学する心を植え付け、最終的には他人の創造物を尊重する意識を持たせたい、そのような方針で行っています。ただなかなか授業時間が少ない中に、こういった課外教育を採用することは難しいようです。
今年は年度始めより愛知県の教育委員会や、名古屋市の校長会などを訪ねてお願いにいったんですけど、なかなか小学校の申し入れが少なく当初の目論見が外れてしまったのは残念です。しかしこういったものは押し売りをするわけにもいきません。必要だと思わない限り受け入れてもらえないので、来年も辛抱強くPRを続けていきたいと思っています。
-電子紙芝居など工夫されてやっていますね。
石田 動物の世界の童話風劇をスライドで示し、五名の弁理士が登場人物の声優を演じる電子紙芝居や工作教室などいろいろやっていますが、正直申し上げて名古屋市内の反応がいま一つ。三河や尾張地区など市外からの要望のほうが多いです。高校では講義と共に、模擬芝居(紛争劇)をやって、両者の主張をリアルに言い合い生徒の関心を引きます。やはり劇の方が人気があり、入りやすいようですね。
本日の講演では新聞などに掲載された知財に関連する個別の事件について解説を加え、興味を持たせるようにしました。やはり専門家を育てるわけではないので、難しい制度や専門用語は省略しました。しかし高校生であっても、知財に関する新聞記事を見て理解できる程度の知識が必要ではないでしょうか。
―校長先生、今日の講演の感想はいかがでしょうか。
岡田 非常にわかりやすかったですね。知的財産権の話で、しかも自由参加で会場の図書館が満員になるというのは非常に驚きでした。本校の教養講座は毎年二回行われています。生徒が主体になってやり宣伝用ポスターも生徒が作りましたが、それで百人もの参加があったというのは、私にとっても嬉しい驚きです。
結構濃い質問もあり生徒が非常に興味をもっているのを感じました。石田先生が講演で語っておられましたが、知的財産を尊重するのは、文明国かそうでないかの分かれ道だな、と強く感じました。
―中国などの新興国は知的財産の面で、まだ遅れている感じがしますからね。
岡田 講演の中で「加工立国から知財立国へ」という言葉が印象に残りました。ただ、物を作って輸出するということから、売るだけではこれからやっていけない、知財立国の考え方が非常に大切だと思います。生徒の質問でも知的財産権の考え方をよく理解して質問しているな、と感じました。
石田 生徒さんの質問をみていると、知的財産権の中の著作権のほうに関心が向いていましたね。
岡田 実は、学校祭の中でよく劇をやるのですが、脚本を使うかについて、生徒は非常に著作権のことを心配しているのです。教育の場ですから、それほど神経質になることはないと思いますが、それに本校は美術科がありますので特に関心が高いようです。
―その一方、特許権などについてはなじみが薄いという気がします。
石田 そうですね。やはり社会に出て研究者として実際の開発を行う立場にならないと、特許権に関心を持つことは難しいかもしれません。ただ、私が強調したいのは「真似をしては駄目ですよ」ということです。真似をするとトップランナーとして走らなくなり、企業や国家の衰退につながるのではないか。そういうことを今日の講演でも言いたかったのです。
―旭丘高校の生徒さんは理系の人が多いと伺っていますが、今日の講演を聞いて、弁理士への認識を新たしたのではないですか。
石田 弁理士は80%の人が実は理系なんです。今は理系の中でも扱い分野が電気や機械、化学と分かれており、これからもどんどん細分化されてくると思いますよ。
岡田 今日のような分かりやすいお話は生徒に非常にプラスになります。将来、どういった道に進むにしても知的財産権というのは生活と切っても切れないものになっていますから。
―これから弁理士を目指す生徒さんへのアドバイスは。
石田 弁理士は今や技術系の仕事といってもよいのですが、特に最先端の技術を扱うため、それらを理解するための基礎知識が非常に大事です。だから、弁理士を目指すにしても、小手先の試験対策の勉強をするのではなく、まず技術の基礎をしっかり磨くことが先決だと思います。
また、科学に興味をもつマインドがぜひ必要だと思います。様々な問題について、答えを知る前に「なぜだろう」と思う気持ちですね。解答の前によく自分で考えてみるという「過程」が大切なのです。
岡田 本校も、生徒に答えを知る前に「まず考えろ」という教育方針をとっていますので、そのあたりはまず問題ないと思います。今は「理科離れ」が言われていますが、本校の生徒は理科が好きな生徒が多いです。知的好奇心が強く数学の「群論」などの講義を聞いても、「背筋の震えるほどの感動を感じた」ともらす女生徒もおり、感受性は大変に強く、将来に期待が持てますよ。
石田 本日の講義も旭丘ということで大学並みの話をしたのですが、少しレベルが高すぎたのではと懸念していましたが、講義終了後の質問内容を聞いて、事前に勉強していたのではと感じました。とにかく新聞を読んで「ああ、こういうことか」ということがわかる程度の知識は持っていて欲しい、今後も伝えていきたいと思います。特許権は国ごとに取得しないと効果がないという、我々からみれば半ば常識の事柄も、一般の人々はご存じないわけですし、そのあたりの知識の溝を埋められたらと思います。特許の対象というのは実は軍事技術は馴じみません。情報を秘匿するのが最優先になりますから。これらのものは平和な時代の象徴だということを強調したいですね。
―ありがとうございました。
[写真左下:対談する石田支部長(左)と岡田校長]
[写真右下:知的財産権をテーマに講演する石田支部長]
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