このアイデアは、形のない財産であり、これを明確にすべく、特許出願をする者(以下、発明者)は、特許請求の範囲(以下、請求範囲)を出願願書に添付する必要があります。
請求範囲とは、アイデアを言葉で定義するものです。他人の製品が特許侵害になるか否かは請求範囲で判断されますので、広い請求範囲が好ましく、弁理士は、日々、発明者のアイデアについて、可能な限り広い請求範囲で特許出願しようと取り組んでいます。
ところで、より広い請求範囲を作るため、発明者は、自己のアイデアに関連する複数のアイデアを、弁理士とともに考えることが必要です。そこで、その複数のアイデアを出す方法を、一例として紹介します。
例えば、世の中にある全ての鉛筆の断面形状が、丸だった場合に、転がり防止のため、発明者が6角断面の鉛筆のアイデアを出したとします。
それに関する他のアイデアを考えると、8角断面の鉛筆も出ます。そこで、これらのアイデアを括る請求範囲を考えると、例えば、「多角形の鉛筆」とすることで、当初の「6角形の鉛筆」より、請求範囲が広くなります。
このように、最初のアイデアを他のアイデアへ広げるためには、最初のアイデアが、どういった物理的、科学的現象を利用して、課題を解決したかを突き詰めて考えることが大切です。
例えば、前述の例では、「長手方向に対する垂直断面で見た重心から、その外周までの距離を不均一とした鉛筆形状」とすることで、転がり時に重心の高さが上下にぶれるアイデアと考えれば、楕円状等、多角形以外の鉛筆のアイデアも出ます。
以上のような例で、最初のアイデアを広げるわけですが、その発端となる最初のアイデアを出す方法について、一例を紹介します。
アイデアには、偶然の発見よりヒントを得て創出されたアイデアと、目の前の課題を解決すべく捻出されたアイデアがあります。前者は、思わぬ材料の性質を発見した発明者が、その性質を応用したアイデアが該当します。一方、後者は、発明者の職務上で与えられたテーマ(課題)より、捻出されたアイデアが該当します。これらのうち、比較的アイデアを出しすい後者の場合について、一例を紹介します。
まず、今ある製品、方法の課題を見つけることが必要です。例えば、発行済みの同業他社の特許公報(以下、公報)より課題を抽出することや、自社の製品について、顧客の批評(課題)を聞くことが挙げられます。
次に、見つかった課題について、アイデアを捻出するわけですが、そのヒントとして、例えば、異業種の工場内の見学、公報の調査により、異業種で取り入れている構造、手法を、自己の業種に取り入れることが挙げられます。他業種で知られた構造、手法を自己の業種に組み入れることは、技術分野が離れていて、それが初めてであれば、特許になる可能性があるからです。
弁理士として、普段接しているアイデア豊富な発明者を見ると、まめに公報を読むなど自ら調査をし、目の前の課題を解決すべく、常に考える癖を身につけていることに気がつきます。
また、人一倍、弁理士もしくは会社内の知財担当者と話しています。そういった姿勢が、優れたアイデアに結びついているのだと感じます。
弁理士 澤田 昌久