A:特許請求の範囲は後回し、おいしい所から読みましょう。
特許請求の範囲は、どの言葉がどこに修飾しているのかが分かりにくいし、こんな長いのに1文。わざと分かりにくくしているわけではありませんが、権利範囲を決めることになるためくどい文章になりがちです。とは言っても、最初に登場するのでここから読まなくてはいけないのかな、と思われるかもしれません。でも、そんなことはないのです。
(1)【特許請求の範囲】は最後に見ましょう。
慣れている人は最初に見てもよいですが、慣れない内は、後回しにしましょう。特に、長い文章になっているものは読んでいても何が発明かイメージできません。まず【要約書】から見てください。公開特許公報ではフロントページに、この【要約書】と代表図面が載っていますので、要約書(及び図面)で、まずは発明の概略を知りましょう。
(2)明細書中では、【従来の技術】(現在は【背景の技術】)~【発明が解決しようとする課題】の欄の記載を見てください。この欄が長文の場合には、【発明が解決しようとする課題】の欄の最後の方に数行で記載してある「そこで本発明は、……を目的とする。」とか「その目的とするところは、……を提供することにある。」といった記載を探してください。この数行の文章を見るだけで、その発明が何を目的としているか瞬時に分かる場合が多いからです。目的を先に知った上で、従来技術や問題点の記載を見れば、斜め読みでも結構理解できます。つまり、答を先に知れば怖くないのです。
(3)続いて、【課題を解決するための手段】の欄の記載を見ましょう。
ここは、特許請求の範囲に記載した構成によって上述の目的がどのようにして実現されるのか、という 構成→作用→効果 の因果関係(ある効果が実現されるためのメカニズム)が記載されています。ここを見ることで発明の全体像が分かります。
ただし、ここも長文の場合がありますので、例えば「……という構成の本発明は、……という作用を発揮することによって、~という効果を発揮する」といった表現を探してみてください。多少表現は違っていても、要するに何を特徴としているかを示す部分があるはずです。なお、【発明の効果】の欄が別に設けられている場合もあります。
B:実施例も必要なところだけ見ればよい
抽象的に記載される課題解決手段などに比べ、実施例(実施の形態)は具体的に記載されるためイメージがつかみやすくなります。ただし、実施例の説明が一番長文になるため「全部読むのは疲れるな」と思ってしまいがちです。ここでも必要なところだけ見るコツがあります。つまり、発明の特徴部分に対応するところをまず探してください。図面から探すのも一案です。例えば、構造に特徴がある発明の場合は見つけやすいですね。また、制御に特徴があればフローチャート中の処理ステップの中身を見て特徴部分を見つけ、実施例の説明文章中からそのステップ番号が登場する段落を探してください。その周辺を読むだけで大体分かります。
ケースバイケースですが、明細書全体のおよそ5分の1~10分の1の分量を読めば、その発明の重要点は把握できることが多いと思います。このようにして重要点(答え)が分かった後で残りの文章を読むのは簡単です。
特許出願書類は、小説と違って最初から順番に読む必要はありません。推理小説は最初に犯人が分かってしまうとおもしろくないですが、特許出願書類は最初に答えを探すことが重要です。上述の方法を試してみてください。基本姿勢は「おいしい所からガブっと」いくことです。
C:でも、やっぱり特許請求の範囲は大事
以上の順番で明細書を読むと発明の概要が把握し易いことは分かったと思いますが、残しておいた「特許請求の範囲」はそのままでいいでしょうか。いやダメです。
なんと言っても、特許請求の範囲は「特許発明の権利範囲」を決めるものなので、最後にはここに戻ってきてください。つまり、ここまでで把握した発明の概要を念頭において、それが特許請求の範囲にどのように現れているか確認しましょう。常に「特許請求の範囲」に戻るような「フィードバック処理」を自分の頭の中でやってみて欲しいと思います。
弁理士 岡本 武也