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新聞掲載記事

更新:2008/08/27

特許権侵害のキーポイント

特許権侵害のキーポイントを主な5点についてお話しします。

①無効理由のある権利は行使できない
 まず、特許権があるからといっても、その権利に無効理由があると権利行使ができません(特許法一〇四条の三)。ここ数年の資料によれば、特許侵害裁判の約四分の一(二五%)のケースで無効理由があると判断されているというデータもあります。裁判所で無効理由があると判断されると、以後の権利行使に大きな影響を与え、あたかも死刑宣告を受けたようなことになりますので、権利者は提訴を慎重にする必要があります。

②特許発明の技術的範囲に属するか否か
 侵害対象とされた製品や方法が権利範囲(技術的範囲)に属するか否かは、グレーゾーンで争われる微妙なケースが多く、白黒つけるのは難しい判断となります。原則として、対象物件が特許発明の構成要件を充足しなければ権利侵害とはなりません。ただし、例外的に、最高裁の判例によって、相違点が本質的部分ではなくかつその置き換えが容易に可能である等の場合には、両者は「均等」なものとして権利範囲に属する(侵害)と判断されることがあります。

③実施を正当化する理由があるか否か
 権利範囲に属する場合でもその実施が法律によって正当化される場合があります。例えば、特許発明の出願前から実施又は実施の準備をしている場合には「先使用権」が認められ、また、権利者の関係者の会社が競合品を製造販売した場合に「職務発明による実施権」が認められたこともありました。その他、試験、研究のための実施などは権利の効力が制限され侵害になりません。

④差止請求
 上の①②③のハードルを越えれば特許権の侵害が成立します。権利者は侵害者に対して、侵害物件の製造、販売等の停止を求めることができます。侵害品の廃棄請求も可能です。緊急の必要性があれば裁判所に仮処分を申し立てて実施行為を即時に停止させることもできます。

⑤損害賠償
 損害賠償というと高額な賠償金を夢見られることがありますが、損害賠償とは損害の発生に対する賠償であり、その立証が可能かどうかを念頭におかねばなりません。無形財産である特許権については、損害の発生や因果関係、損害額などの立証が極めて困難です。そのために、特許法では特則(一〇二条)を設けて、侵害者利益額や実施料相当額などを損害額として請求することを認めています。


弁理士 後藤 憲秋