他に代替手段がいくらでもある場合には、そちらを選択するのが賢明です。しかし、その特許発明が使用できたら、自社の製品をもっと安く作ることができるのに!とか、もっと商品価値が向上するのに!とかいう場合に遭遇することもあるかと思います。特許権の存続期間は出願から20年ですから、権利が切れるまで待っていては時期を逸してしまうこともありえます。したがって、特許発明を使用したいのに使用できない場合の不利益は大きくなります。
その場合には、特許権者にロイヤリティーを支払ってその特許発明を使用させてもらうのが通常行われていることです。しかしながら、その特許権者が競業者の場合には、容易に実施権の設定をしてくれるとは思えません。また、ロイヤリティーの額が製品原価の50%も要求されたりしたら利益がでないことにもなりかねません。そんな時、もうこの特許発明を使用することを諦めてしまってもよいでしょうか?それはまだ早すぎます。
特許無効審判を活用すべきです。特許発明は、特許庁の審査官による審査を経て成立するので、一応、新規性や進歩性等の特許要件は満たされているものと言えます。ここで、「一応」と言ったのは、必ずしもそうでない場合もあるからです。特許庁には毎年40万件もの特許出願がなされますから、30年も経てば1200万件という膨大な先行技術文献が蓄積されることになります。その中から、その特許出願に係る発明が新しいものか、先行技術文献に記載された発明から容易に思いつくものではないかを審査するわけですから、決して完璧であるとは言えない訳です。審査の中で漏れる先行技術文献も出てくる訳です。
また、先行技術文献となるのは、特許出願に限られません。その特許発明に係る特許出願前に配布されたパンフレットに、その特許発明が記載されていたり、インターネット上で公開されていたりした場合も先行技術文献となり得ます。そんな先行技術文献を特許庁の審査官が逐一集めて審査をしている訳ではないからです。
そこで、特許発明に無効理由があることが判明した場合には、特許無効審判を請求して、その特許権を遡及的に消滅させることができるようにしている訳です。ここで、「遡及的に」というのは、特許権が成立した時にさかのぼってという意味です。したがって、特許無効審決が確定した場合には、既に特許権者に許可なく、その特許発明を実施していた場合でも損害賠償金等を支払わなくてもよくなる訳です。特許無効審判の請求手続きには、かなり高度な専門知識が要求されますので、専門家である弁理士に依頼するのが賢明でしょう。
日本弁理士会東海支部 UR-10委員会
委員長 弁理士 中村 繁元
委員長 弁理士 中村 繁元