東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2007/12/14

商標登録による防衛効果

 皆さんは商標登録に関し、どのようなイメージを持っていますか?「商標登録ってした方がいいの?」「商標登録をすると、一体、どのようなメリットがあるの?」といった質問をしばしば受けることがあります。私は、商標登録をしておけば、自己の商標の使用を安全に継続でき、ひいては、企業活動を円滑化するという防衛的なメリットが大きいと考えています。
 商標登録のメリットは?と質問されると、まずは原則ということで次のように回答します。基本的に、商標登録されて商標権が発生すると、その商標と同一範囲にある商標を独占的に使用できると共に他人の使用を禁止することができ(商標法第25条)、また、その商標と類似範囲内にある商標の他人の使用も禁止することができます(商標法第37条)。具体的には、登録商標の同一・類似範囲内にある商標を他人が使用する行為に対し、差止請求権を行使したり、場合によっては、損害賠償を請求できることもあります。
 このように回答すると、次のような言葉が返ってくることが度々あります。「うちのお店はこの土地だけで商売をしているので、自分たちが昔から使っている商標を使い続けることさえできれば十分だよ。まして、他人の商標の使用を差し止めるつもりなどないから商標登録なんかする必要はないよね」と。
 実は、この言葉の中には幾つかの問題が潜んでいます。第1に、自分が使っている商標と同一又は類似範囲にある商標について、他人にとやかく言うつもりがないとしても、他人がその商標を登録してしまうと、逆にその他人に独占排他権が認められ、その他人から差し止め等を受けてしまうおそれがある点です。
 特に、会社やお店の主力商品に使用し、お客様にせっかく記憶してもらったような商標が、ある日、突然、他人に登録され、以後、その商標の使用ができなくなってしまうことは、痛手が大きいものです。このようなことがないよう、すなわち、自己の商標使用が安全に且つ継続できるようにするという自己防衛のために商標登録をしておく必要があるのです。
 第2の問題として、その土地のみの商売だから他人に商標登録されてしまっても、そもそも他人に気がつかれることはないだろうと認識されている点ですが、今日では、そうともいえない状況になっています。例えば、愛知県のある土地で、小さなお菓子屋さんを営んでおり、ある商標Xをその店のオリジナルのお菓子名として販売していたとします。これに対し、商標Xが実は商標登録されていて商標権者が北海道の菓子製造メーカーであったとします。
 この場合、商標権者は北海道で商売しているのだから、愛知県の小さなお菓子屋が使っている商標など気がつくことはないだろうと考えがちです。ところが、最近はインターネットの急速な発達により、様々な情報が日本全国に行渡るようになっています。しかも、自らインターネット上にホームページを開設していないとしても、商品を購入した方たちが、「○○というお店のXというお菓子は美味しい」という評価を勝手にインターネット上に公表することが多々あります。その結果、愛知県の小さなお菓子屋さんによる商標Xの使用の事実が、北海道の商標権者に知れてしまうということが起こり得るのです。
 第3の問題として、昔から使っている商標は、以後も既得権として使用を続けることが可能であるとの認識です。確かに、商標法では、先使用による商標を使用する権利というものが認められていて、先に商標を使用していた者は商標登録していなくても保護する旨の規定が存在しています(商標法第32条)。
 ただ、この保護規定は、先に商標を使用していれば無条件に保護されるわけではなく、そのほかにも条件が課されています。その条件とは、周知性、平たく言えば、その商標がかなり有名になっていることが必要です。ここで、“かなり有名”ってどの程度なのかと疑問が生じるかと思いますが、ハードルは非常に高いと考えてください。
 この周知性を立証するために要求される証拠は、商標を使用する商品・役務(サービス)、その商品・役務の取引の実情等により異なってきますので、一概には言えませんが、例えば、テレビCMで宣伝した事実、雑誌・新聞等により相当の量の広告をした事実、販売数量や売上高が相当あることなどを立証しなければなりません。前述の事例のように愛知県のある土地のみでお店を営んでいる程度だとおそらく周知性は認められず、先使用による商標を使用する権利も認められないでしょう。
 商標というものは、質の高い商品や役務(サービス)に付して継続的に使用していると、その商標に信用が化体し、需要者が商品や役務を選択する際の質の良さを認識する目印となるものです。従って、せっかく信用の化体した商標が他人に商標登録され使用できなくなってしまったならば、企業活動に大きなマイナスを与えてしまうものです。
 このようなことのないよう少なくとも重要な商標、例えば、主力商品に用いる商標、社名に直結するようなハウスマーク、小売業を営んでいる店名等については、商標登録によってしっかり防衛しておきたいものです。


弁理士 伊藤 浩二