東海会の活動について

新聞掲載記事

更新:2007/11/04

特許侵害警告を受けた場合の措置

1.初期対応

  警告書には、通常2週間~1カ月程度の回答期限が付されますが、的確な対応に十分な時間の確保が必要なため、早急に、最寄の弁理士(または、日本弁理士会東海支部から紹介を受けた弁理士)にご相談下さい。侵害訴訟となった場合、弁理士は、通常補佐人若しくは共同代理人として弁護士と連携をとりますので、警告を受けた場合も、弁理士は、適宜弁護士と連携をとって、①警告書の分析と必要な調査、②全体状況の把握、③依頼人の意向に基づく戦略の策定をおこないます。

2.基本的対応
 1)警告書の要求事項から、警告者の意向(警告の対象となっている製品等(以下「対象製品等」)の製造販売等の中止、損害賠償、謝罪広告、交渉の余地等)を確認します。また、警告者のホームページ等からその業務内容等の状況を確認します。なお、調査等のため回答期限の延期が必要となる場合は回答延期願を送付します。
 2)特許権等が有効に存続しているか否か、警告者が特許権者であるか否か等を特許登録原簿等により確認します。登録料不納等により特許権が消滅している等の場合もあり、不当な警告により被害を受けた場合は逆に訴えることも可能となります。
 3)対象製品等が特許権の権利範囲に属するどうかを確認します。この権利範囲は、特許公報の特許請求の範囲の他、明細書および図面、補正、拒絶理由とその引例、意見書等も考慮に入れて判断します。その結果、対象製品等が権利範囲外ならば侵害は不成立となります。
 4)その他、対象製品等を製造、使用等することが先使用権等の正当な権限に基づいているものであるか否か等を確認します。正当な権限がある場合は特許権に対抗することができます。


3.対象製品等が権利範囲内と判断した場合の対応

 1)特許を無効にできる公知の文献・製品等の証拠資料を調査します。発見した無効資料により、侵害訴訟において請求が棄却されたり、特許庁の無効審判により特許が無効にされ、その結果、侵害が不成立になる可能性があります。
 2)対象製品等を製造、使用等することについて先使用権等の正当な権限があるか否かを確認します。侵害訴訟で先使用権の存在が認められれば侵害が不成立になります。
 3)対象製品等を設計変更することにより権利範囲外とします。
設計変更が比較的容易であり、設計変更後の対象製品等でビジネスを開始・継続できる場合に有効な手段です。ただし、設計変更前の対象製品等の製造販売による損害賠償も要求されている場合は、その対応が残ります。
 4)対象製品等の製造販売等の継続のため、交渉により実施許諾、権利譲渡を求めます。警告者が実施許諾の余地を認める場合は、敗訴した時の損害賠償額、代理人費用等を考慮してもなお製造・販売継続におけるメリットが見込めるときは、実施許諾を考慮する余地があります。また、警告者が製造・販売する製品等に対して行使し得る特許権等があるときは、クロスライセンスの可能性もあります。
 5)対象製品等の製造・販売等の中止 上記1)~4)の対応にも拘らず対象製品等の製造・販売等が困難な場合は、今後対象製品等の製造・販売等を継続するか否かについて検討が必要になります。


4.対象製品等が権利範囲に含まれないと判断した場合の対応
 1)弁理士等の鑑定書等を添付して、対象製品等が権利範囲に含まれない旨の回答書を警告者に送付することにより、その誤解の解消を図ることができます。また、警告が「虚偽事実の告知・流布」(不正競争行為)等に該当する場合は、逆に訴訟を提起することができます。
 2)上記回答書の送付にも拘らず、警告者が訴訟を提起する可能性があり、権利範囲外について相当の自信がある場合は、警告者の訴訟提起に先立ち差止請求権等の不存在確認訴訟を提起することもできます。


弁理士 今井 豊