Q 最近、他の知的財産と同様に、商標の重要性も認識されつつありますね。それによって、私たちにも商標というものが以前よりも身近な感じがしてきました。そこで、自分なりにある程度理解した状態で依頼をする方が良いのではないかと思いました。
A そうですね。ある程度ご理解して頂くと、貴社内においても出願前に商標の絞り込みがある程度可能となって、商標登録出願の能率が向上しますね。
Q どのような商標が登録され得るか具体的に説明して下さい。
A 出願された商標が登録されるためには、所定の登録要件を満たしている必要があります。登録要件は多数ありますが、最も重要なものは2つに絞られます。
Q 第1の登録要件は何でしょうか?
A 第1の登録要件は、識別力を有しているか否かということです。識別力とは、自社と他社の商品や役務を識別する機能のことをいいます。簡単にいえば、商標としての特徴を有しているか否かということです。
Q 具体的にはどういう内容でしょうか。
A 商品や役務の普通名称の商標や、商品や役務の内容等をそのまま表示する商標(品質表示)等が該当します。
普通名称の例としては、「りんご」という商品についての「りんご」や「アップル」という商標が該当します。
品質表示の例としては、「机」という商品についての「木製」等の商標が該当します。「牛乳」という商品についての「北海道」等の商標も該当します。これらは識別力を有していないとされています。
また、ありふれた氏又は名称からなる商標や、英文字1字又は2字からなる商標等も識別力がないと判断されます。
Q 何かそれは当たり前のような感じがしますね。
A 典型例をいえば当たり前のような感じがします。しかし、微妙なところになると、なかなかむずかしいんですよ。
たとえば、先ほどの「アップル」の例ですが、「りんご」という商品についての場合は普通名称に該当しますが、「コンピュータ(電子応用機械器具)」という商品については普通名称にならず、識別力があると考えられます。
また、品質表示になるかならないかギリギリのようなところの商標は、企業の戦略上、非常に良い商標と考えられるのです。たとえば、「デンタルフロス」なる商品についての「糸ようじ」なる商標は、識別力ありとして登録されています。また、「貨物自動車による輸送」なる役務についての「宅急便」が登録商標なのは有名だと思います。さらには、「クレジットカード利用者に代わってする支払代金の清算」なる役務についての「PLATINUM CARD」も登録商標なのです。
また、英文字2文字の場合でも、モノグラムとされている場合は、識別力ありと判断されます。
Q 次に、第2の登録要件について説明して下さい。
A 第2の登録要件は、他人の先行商標と同一又は類似の関係にあるか否かということです。すなわち、同一又は類似の関係にある他人の商標がすでに登録又は出願されている場合には登録を受けられず、そのような商標が存在しない場合には登録を受けられるのです。その際注意して頂きたいのは、商標が同一又は類似であっても、指定商品又は指定役務が非類似の場合は、OKということです。
Q なるほど。では、商標の類似はどのように判断されるのですか?
A 商標の類似は、外観,称呼,観念が共通するか否かによって判断されます。商標のうち最も多いのは文字商標であり、文字商標の場合は称呼を中心に判断されます。
Q では、称呼の類似について詳しく教えて下さい。
A まずは類似と判断された例を示します。「スチッパー」と「スキッパー」は類似と判断されました。「ヘトロン」と「ペトロン」も類似、「ダンネル」と「ダイネル」も類似、「サボネット」と「シャボネット」も類似と判断されました。
Q よくわかりました。
A 次に、2以上の要素が結合されて形成された結合商標についての固有の問題があります。A+Bからなる結合商標の場合は、全体でのみ類否判断される場合と、A,Bの各要素又は一方の要素についても類否判断される場合があります。
Q 具体的にお願いします。
A 品質表示的な文字やその商品の普通名称等を有する商標の場合は、その部分が除外された態様も考慮されます。例えば、「スーパーライオン」の商標の場合は、「ライオン」という態様も考慮されます。「興行場の座席の手配」なる指定役務についての「プレイガイドシャトル」という商標の場合は、「シャトル」という態様も考慮されます。
また、「クリサンシマムブルースカイ」という商標の場合は「クリサンシマム」「ブルースカイ」の各態様も考慮されます。
Q その他の登録要件についても説明して下さい。
A 他の重要な登録要件としましては、大別すると次の3つのものがあります。
まずは公益を害さない商標であることです。国旗と同一又は類似の商標や、公序良俗を害する商標は登録されません。また、他人の周知又は著名な商標と類似したり、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標も登録されません。また、商品の品質や役務の質の誤認を生ずるおそれのある商標も登録されません。
これらも商標法上重要な規定です。しかしながら、通常の良心的な商標の採択を行っている場合には、該当するケースはあまり多くはないかと思います。
Q そのようですね。そうすると、先に説明して頂いた2つの要件がやはり重要な2本柱なんですね。
A そのとおりです。そして、いずれも典型例について十分なご理解を頂くことがまずは重要だと思います。
弁理士 長谷川哲哉