商標登録がなされた場合、商標権が発生し、他人は商標権者に許可を得なければ、その商標や類似する商標を特許庁に登録された指定商品もしくは指定役務、さらに、それらに類似する商品もしくは役務に使用することができなくなる。阪神優勝という文字が商標に該当するのかと思われるかもしれないが、商標法上における商標の定義からは阪神優勝を商標から除外する根拠は判らない。優勝記念グッズを販売しようとする球団としては非常事態である。さて、どうすればグッズ販売を行えるのだろうか。
方法としては、商標権者から使用許諾を受けること、商標権を譲り受けること、商標登録を取消、無効にすることが考えられる。阪神球団は、商標権を譲り受けることを選択し、商標権者との間で同意に至りかけていたらしい。しかし、商標権者側が、商標権を譲渡するが譲渡後にも自らの使用を認めて欲しいと主張したことから、その合意が破談になったようである。そこで、阪神球団は、商標登録を取消、無効にするという方法を選び、特許庁に対して商標登録無効審判を申し立てた。
商標登録されるには、登録要件を満たさなければならないが、登録要件を満たさずに商標登録された場合、その商標登録を無効にできる。商標登録を無効にしてしまえば、商標権が消滅してしまうため、阪神球団は「阪神優勝」という商標を使用することが可能になる。
その登録要件の中に、(1)他人の業務にかかる商品または役務と混同を生ずる恐れがある商標、(2)公序良俗に反する商標、に関しては登録を受けられないという内容がある。阪神球団側は、「阪神優勝」という商標は、これらの登録要件を満たさずに商標登録されたものであるという主張をしたのである。
昨年末、商標登録を無効にするという申し立てが認められ、今年からは、阪神球団は許諾を受けることなく「阪神優勝」という文字を使用してグッズ販売を行うことが可能となった。今年、阪神優勝という結果になるか否かは定かではないが。
商標に関する事件がこれほど注目を浴びるのは珍しいが、有名企業、有名人の方々は、このような事件に巻き込まれないように、商標に関する知識を持っておくといいかもしれない。かの有名な、マリナーズのイチロー選手やボローニャの中田英寿選手などは、数年前からご自分のネームを含む商標を登録している。ヤンキースの松井秀喜選手も去年、商標登録出願をしている。一流選手は、やはり何に関しても一流なのかもしれない。
弁理士 三浦 高広