我国で特許を受けるためには、特許の対象である発明が新規性と進歩性を有していなければなりません。別の言い方をすれば、判断の難しい進歩性の有無はともかく、新規性のない発明について特許出願をしても特許を取得することはできません。
新規性のない発明には、特許出願前に公然知られた発明、特許出願前に公然実施された発明、特許出願前において刊行物やインターネット上に記載(公開)された発明などが含まれます。このような新規性のない発明について特許出願を行うことは、特許が得られない以上、発明の単なる公開が目的であるというような特別な場合を除いて時間、費用、労力の無駄であるといえます。
2.先行技術調査のための便利なツール
そこで、特許出願を行う前に何らかの先行技術調査を行うことが大切です。調査の結果、特許を受けようとする発明に新規性のないことが明らかとなった場合には、出願を中止する或いは出願内容を変更することによって費用と労力の無駄使いを回避することができるからです。
先行技術調査は専門の調査会社や特許事務所に依頼すれば詳細に行うことができますが、それ相応の費用がかかります。もちろん大切な案件については多少費用がかかっても精度の高い調査を行うに越したことはありません。
他方、費用をかけずにいつでも手軽に先行技術調査を行うこともまた重要だと思われます。常に先行技術を把握しておくことによって自分(自社)の成果を客観的に評価することが容易となり、さらには独り善がりの研究・開発が抑制され、他人(他社)の成果と重複するような無駄な研究開発投資が避けられるからです。また今後の研究開発の方向性を定める材料ともなるでしょう。
先行技術調査を行うためのツールにはいろいろなものがあるとは思いますが、特にお勧めなのが一般にIPDL(Industrial Property Digital Libraryの略)と呼ばれている特許電子図書館です(以下「IPDL」という。)。
IPDLは独立行政法人である工業所有権情報・研修館がそのウェブサイト上で提供している特許情報検索サービスであり、インターネットに接続しさえすれば自宅や職場のパソコンを通じて誰でも無料で1年中24時間いつでも利用することができます(但し不定期に行われるメンテナンス時を除く。)。
IPDLには、特許、実用新案、意匠、商標等に関してこれまで公開されてきた公報類が蓄積されています。従って、IPDLを利用して技術情報の宝庫である特許・実用新案公報類を検索することによって、誰でも気軽に関連する先行技術を調べることができます。
読者の皆様のなかにもIPDLをよく利用されている方がいらっしゃるとは思いますが、まだ利用したことのない方のために、今回はIPDLを利用した先行技術の調べ方について簡単にご説明したいと思います。
3.IPDLへのアクセス
IPDLのURL(http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)を入力して直接アクセスすることができますが、特許庁のホームページの最下段または独立行政法人工業所有権情報・研修館のホームページの中央右側にある特許電子図書館(IPDL)をクリックするのが早道と思います。そこをクリックすると次の画面1が表示されます。
画面1(特許電子図書館からの転載)
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この画面にはIPDLで行うことのできる各種サービスが列挙されています。特許・実用新案検索の他にも、意匠、商標、外国文献、等の検索も行えます。今回は特許・実用新案検索についてのみご説明いたします。
画面2は、画面1の左側リストの一部を拡大した画像です。特許・実用新案検索では主にこれらの検索サービスを利用します。
画面2(特許電子図書館からの転載)
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これらのうち「初心者向け検索」は検索できる項目が技術用語、特許出願人、発明者に限定されていますが、画面が見やすく、分かり易い説明文も付いていますので簡単に操作することができます。検索に馴染みのない方は先ずこちらのサービスを利用されるとよいと思います。
4.便利な公報テキスト検索
画面2のうち、「特許・実用新案検索へ」をクリックします。すると画面3が表示さます。
画面3(特許電子図書館からの転載)
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この画面に記載されているように、特許・実用新案検索に関して9種類のサービスが提供されています。これらのうち先行技術調査が行えるサービスとして3.公報テキスト検索が用意されています。そこで「公報テキスト検索」をクリックします。そうすると次の画面4が表示されます。
画面4(特許電子図書館からの転載)
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画面4が実際に検索を行う画面です。画面上部に公開種別として、公開特許公報、特許公報、公開実用新案公報、実用新案公報の4通りが表示されています。公報テキスト検索においては、検索対象公報をこれら4種類のうちから選択することになります。先行技術調査では、権利化されたものも権利化されていないものもどちらも含まれている公開特許公報または公開実用新案公報を選択するのがよいでしょう。
また、文献蓄積量は公開特許公報が最も多いので今回は公開特許公報を用いてみます。検索対象公報の切替えは表示の左側にある丸い凹み部分をクリックすることで行います。画面4は公開特許公報が選択された状態です。
その公報種別の下には検索項目選択、検索キーワードおよび検索方式の欄があります。
画面5に表示されているように、検索項目選択はプルダウンメニューになっており、どの項目で検索するかを選択することができます。
画面5(特許電子図書館からの転載)
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画面5に示すように、発明の名称、要約、請求の範囲(特許請求の範囲)、IPC(国際特許分類)、出願人、発明者、出願日、公開日、等が選択肢として用意されています。また、入力箇所は3段ありますから、最高で3種の異なる検索項目を選択することができます。慣れてくると、検索項目を自由に選択して調査を行うことができます。
それでは、「発明の名称」と「要約」と「公開日」を選択し、携帯電話のパネル部分に関する先行技術について検索してみましょう。
画面6は検索を実行する直前のものです。
画面6(特許電子図書館からの転載)
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検索項目「発明の名称」の検索キーワード欄に用語「携帯」と「電話」をワンスペースあけて入力します。このように複数のキーワードを入力する場合は、間にワンスペース設けて下さい。スペースがないと一つのキーワード(ここでは携帯電話)となってしまいます。検索方式の欄はプルダウンメニューとなっていて「OR」か「AND」かを選択します。意味はその通りで、ORを選ぶと発明の名称中に「携帯」と「電話」の少なくとも一つを含んでいるものが検索され、ANDを選ぶと発明の名称中に「携帯」と「電話」の両方を含んでいるものが検索されます。
「電話」のみで検索すると携帯電話以外の電話(固定式電話等)も検索で引っかかってしまうので、ここではANDを選びます。それなら最初から「携帯電話」という一つの用語で検索すればよいと思われる方もいらっしゃるでしょうが、その場合には、「携帯式電話」や「携帯型電話」と記載されたものが検索の網からはずれてしまうことになります。このように、検索を行う場合にはキーワードの選択に工夫が必要となります。キーワードの決定は漏れの無いように慎重に行って下さい。
次の要約の欄では、パネルとディスプレイとを入力しております。例えば携帯電話の液晶表示部分をパネルと呼ぶ場合もありディスプレイと呼ぶ場合もあるかと考えたからです。
次の公開日の欄には「2005?」と入力しています。これにより、検索の対象公報が2005年に公開されたものに限定されます。なお、「2005?」のように検索キーワードの入力の仕方にはIPDL独自のものもありますが、公報テキスト検索画面のヘルプをクリックすると、入力方法の詳細が参照できます。
さあ、ここまで入力すれば、あとは検索です。結果を楽しみに、検索ボタンをクリックします。
画面7(特許電子図書館からの転載)
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しばらくすると画面7のように検索ボタンの上に検索結果が表示されます。今回の検索では、41件の公報がヒットしました。IPDLではヒット件数500件以上の場合は、公報の内容を表示できないため、500件以下になるように検索の条件をもう少し絞り込む必要があります。逆にヒット件数が0の場合には、検索条件が厳しすぎる可能性がありますのでもっと広くなるようにキーワードの一部削除や変更が必要でしょう。
画面8(特許電子図書館からの転載)
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そして一覧表示のボタンをクリックすると、今回ヒットした公報の一覧が画面8のように表示されます。そしてリストアップされた各公報の公開番号をクリックすることによってその公報の内容(明細書や図面の内容)を自分のパソコン上で確認することができます。
以上、ご説明したようにIPDLは非常に利用し易い便利な先行技術調査ツールといえます。何時間アクセスしても無料ですので、ぜひIPDLでいろいろな情報を収集してみて下さい。なお、現在、平日の昼間は非常に混雑しておりますので、早朝・深夜、或いは休日の利用がお勧めです。
弁理士 安部 誠